基盤研究C 2021–2023「研究経過」

古代哲学史研究への新たな視座─「教導」の体系に関するアウグスティヌスの洞察


2021年度

研究初年度にあたって研究代表者・上村直樹は、研究計画において言及した研究第1段階である2021年度に先行して取り組む課題Aと研究第2段階である2022年度に引き続いて取り組む課題Bについて、COVID-19の世界的な感染拡大状況が改善せず国外ヨーロッパにおいて実施すると計画していた文献資料調査の遂行が困難であることを踏まえて、それらの課題に取り組む順序を逆転し、先行して課題B「アウグスティヌスにおける「精神の修練」「自己への配慮」とは何かについて、テクスト1: アウグスティヌス「書簡」集とテクスト2: アウグスティヌス「民衆向け説教」集を分析する」に取り組むことに決定した。そして課題A「アドの「精神の修練」研究とフーコーの「自己への配慮」研究の孕む問題性について、アドとフーコーの主著を分析する」に関する文献資料調査の下調べを国内外の電子アクセス可能な資料によって行なうことに決定した。

以上の計画の変更に伴う課題遂行順序の入れ替えのもとで遂行した課題Bに関して、アウグスティヌスの思考の実態を「書簡」集と「民衆向け説教」集において考察し、その成果を国外の学会において発表することができた。

また研究第2段階である2022年5月にオンライン形式で開催される予定のカナダ教父学会において、「テクスト2: アウグスティヌス「民衆向け説教」集」を取り上げ、フーコー最晩年の講義録において展開され課題Bとも連動する「パレーシア」概念について考察する研究発表の申込が受理されたので、この発表の準備に着手することによって研究第1段階の後半において課題Aにも取り組むことになった。

さらに「研究実績の概要」において報告した一連の研究成果についてウェブサイトを通して周知する枠組みを制作した。

2022年度

研究第二年度にあたって研究代表者・上村直樹は、COVID-19の世界的な感染拡大によって変更した研究計画のもと、順序を入れ替え先行させる課題B「アウグスティヌスにおける「精神の修練」「自己への配慮」とは何かについて」と、後続する課題A「アドの「精神の修練」研究とフーコーの「自己への配慮」研究の孕む問題性について」それぞれについて、遂行した成果の一部を国外においてオンライン形式によって開催された学会において発表した。そして研究者との意見交換を通して、研究最終年度に刊行を予定している冊子体報告書の内容を検討することに着手した。

上村直樹はまず2022年5月に開催された北米教父学会における発表の準備において、アウグスティヌスの主著の一つ『神の国』研究の最新動向について調査を進めながら「自己への配慮」について考察し、その成果を発表した。つづいて同じ5月末に開催されたカナダ教父学会における発表の準備において、課題Aに関連する鍵概念「パレーシア」に関する研究動向について調査を進めながら「殉教」と古代末期のキリスト教的な心性の関係について考察し、その成果を発表した。そして各々の機会における研究者からの批判と意見交換を通して、課題Aと課題Bを相補的に検討するという本研究の妥当性を検証した。

年度後半には北米教父学会の機関誌であるJournal of Early Christian Studies 編集委員から依頼された書評の執筆を通して、当初の研究計画において設定していた研究第3段階の課題C「アウグスティヌスにおける「教導」とは何か」に着手するとともに、課題Bをアウグスティヌスの主著『神の国』の分析との連関において考察するという研究計画の拡張可能性について検討した。

2023年度