基盤研究C 2011–2013「研究計画」

アウグスティヌスにおける聖書解釈の理論と実践


2011年度

研究代表者上村は、『未完の創世記逐語註解』(393年執筆)に前後する著作、『詩篇講解』を中心とする説教、また書簡のなかに散在している「創世記」註解を読む。それによって、それらが『未完の創世記逐語註解』に認められるような「創世記」1:26-27解釈の問題性解決に向かっているかについて検証し、この時期の「創世記」解釈の特徴を明らかにする。その成果の途中報告と本研究の方向性について、2011年5月下旬にカナダ・フレデリクトンのニューブランズウィック大学でひらかれる「カナダ教父学会」において発表する予定である。すでに2010年5月30日にカナダ・モントリオールのコンコルディア大学においてひらかれた同学会において研究発表をおこない、意見を交換しているので、発表についての活発な議論を期待することができる。また、2011年8月にイギリス・オックスフォードにおいてひらかれる「国際教父学研究集会」において、「カナダ教父学会」での議論をふまえ再考した発表をおこなう予定である。これらの成果についでパウロ書簡註解群を読む。上述の E. Plumer による研究や、アウグスティヌス中期以降の註解として、その一部を担当した邦訳(『アウグスティヌス著作集』第26巻「パウロの手紙・ヨハネの手紙説教」教文館、2009年)から得られた知見、さらに佐藤が提出する、言語論的な観点から心のあり方に着目するといった註解分析に重要な視点を援用することによって、小品とはいえ難解なパウロ書簡註解群の実態を解明することに集中する。これらの成果は、「教父研究会」のシンポジウムにおいて発表する予定である。

研究分担者佐藤は、『嘘について』の分析をひきつぐことによって、この著作に前後する言語論の変化の可能性を検証するための研究に着手する。データベースなどを利用して調査をすすめるとともに、最初期の著作『ソリロクィア』から、『教師論』、『嘘について』、『キリスト教の教え』にいたる心身論の展開について考察する先行研究 (Cf. R. Kennedy. The Ethics of Language: An Augustinian Critique of Contemporary Approaches to the Morality of Lying. Indiana 1996) も検討したうえで、初期の言語理論の全体像をとらえることに集中する。その際に着目されるのは、アウグスティヌスの言語論の特徴の一つとされる、話し手や聞き手の意図を重視するという考え方である。そして、すでに明らかにした『ガラテヤ書註解』との用語上の一致について考察を深めることによって、パウロ書簡註解群のテキスト分析にとりかかっている上村の作業に参加する。そして、上村の進捗状況におうじて、そのテキスト分析の一部を分担し、その進展をたすける。また、2011年11月に西南学院大学(福岡市)においてひらかれる「中世哲学会」に参加し、アウグスティヌスの言語論を研究している国内の研究者との意見交換をおこなう。さらに、2012年3月に聖心女子大学(東京)においてひらかれる「教父研究会」のシンホジウムを準備する。上村の研究員としての受入先責任者である荒井洋一教授(東京学芸大学教育学部)が主催し、上村と佐藤の研究発表をふまえて、アウグスティヌスの聖書解釈について討論する予定になっている。佐藤は、このシンポジウムにおけるテーマを具体的にしぼりこむとともに、荒井洋一教授と上村の意見をとりまとめ、全体の調整をはかる。

2012年度以降

研究の第二段階において、両名は前年度の精査にもとづいて、分析したテキストのなかで人間論がいかに展開しているかをさぐる。上村は、「創世記」註解のなかに、人間が神の似像にむけて造られたという創造にもとづく人間論の展開をさぐりだす。一方佐藤は、上村が分析した成果を検証しながら、パウロ書簡註解群のなかで、「原罪」を有する人間のあり方に対していかに焦点が当てられているかを考察する。

上村は、前年度につづいて2012年6月初旬にカナダ・オンタリオのウォータールー大学でひらかれる「カナダ教父学会」において、前年度後半にすすめたパウロ書簡註解群についての研究を発表する。また、その直前5月下旬にアメリカ・シカゴにおいてひらかれる「北米教父学会」にも参加し、パウロ書簡註解群について明らかになった成果を発表する予定である。すでに2010年5月28日にも同学会において研究発表をおこなっているので、さまざまな視点を有する研究者からのコメントといっそうの交流を期待することができる。「北米教父学会」、「カナダ教父学会」へは、2013年度にも参加、研究発表をおこなう予定であり、聖書解釈の実態を包括的にとらえ、検証した本研究の最終的な成果の一部を明らかにする。

佐藤は、この年度から研究成果を国内外において積極的に発表する。まず、京都大学の「中世哲学研究会」の定例研究会において、『嘘について』とそれに前後する言語論について解明した研究を発表する予定である。「中世哲学研究会」にもアウグスティヌス初期の言語論に関心をよせ、研究をすすめている研究者がいるため、議論を活発におこなってゆく。また、韓国ホセオ大学校においてひらかれる「アジア環太平洋初期キリスト教学会」の研究集会に参加し、Lake 博士、上村とともにアウグスティヌス関連セッションにおいて発表をおこなう予定である。

両名は、2013年度にはオーストラリア・メルボルンでひらかれる第7回 Prayer and Spirituality Conference に参加し、それぞれが研究発表をおこなう予定である。すでに学会の統一テーマが “Image of God: Men and Women”と決定されているので、上村は2011年度にすすめた「創世記」註解に関する研究成果をその後の考察もくわえたうえで発表する。一方佐藤は、本研究の最終的な成果の一部を明らかにする発表にとりくむ。また、この学会においてもセッションを企画する可能性について、Lake 博士と検討している最中である。