基盤研究C 2014–2016「研究計画」

アウグスティヌスにおける心性の複層性と修道制への関与


2014年度

研究代表者上村直樹は、アウグスティヌス初期のおよそ 10年間にあらわされた著作群と「説教」、「書簡」をあわせて読み、コンピュータデータベースも利用して、「生の技法」という古代的な生の規定がアウグスティヌス初期の思想に受容されていく過程を考察する。そして、この技法についての初期著作群を中心とした分析の途中報告と本研究の方向性について、2014年 5月下旬にシカゴでひらかれる「北米教父学会」において発表する。また、「説教」と「書簡」を中心に検討した研究の途中報告と本研究の方向性について、同じ 5月下旬にカナダ・セントキャサリンズのブロック大学でひらかれる「カナダ教父学会」において発表する。すでに両学会では、2010年以降継続して研究発表をおこない、交流を進めてきたので、研究の方向性に関する活発な議論を期待することができる。

ついで、9月の二つの学会発表では、「生の技法」と平行して着手する課題、キリスト教的な生の範型について考察した研究成果を発表する。まず、9月上旬に東京でひらかれる「アジア環太平洋初期キリスト教学会」第 9回研究集会において発表をおこなう。この研究集会には、計画立案の契機の一つである2013年 10月の「初期キリスト教学会」での研究発表(“Augustine’s Quest for Perfection and the Encounter with Vita Antonii”) について議論した研究者が複数参加するので、その議論をふまえた課題の方向性について報告し、研究進展に益する所見を期待している。つづく 9月下旬の豪州シドニーでひらかれる「セント・アンドルーズ神学院教父学シンポジウム」では、修道的な活動をふまえた著作群(『83諸問題集』など)の分析と東方教父からの影響に焦点をあてた研究発表をおこない、東方教父の研究者が多数あつまるこの学会での意見交換をおこなう。

この年度の後半には、これまでにおこなった発表に対する研究者からのコメントを再考し、「生の技法」の実態、また生の範型と修道制との関連というこれら二つの課題の進捗状況を確認するとともに、必要におうじて研究計画の修正をはかる。9月上旬の東京での研究集会には海外研究協力者である Pauline Allen 教授を招聘する予定なので、本研究に関する成果を共有し、研究の進展におうじて必要となる文献資料・データベースの利用について打ち合わせる。これらの修正をふまえ、この年度にまとめた研究成果を、2015年 1月に豪州地域でひらかれる予定の「オーストラレーシア古典学会」、ついで 3月上旬に豪州ブリスベンでひらかれる Allen 教授主催のオーストラリアカトリック大学初期キリスト教研究センター年次集会において発表する。前者の学会には西洋古典学を専門とする研究者が多数参加するので、生の技法についての発表に関する活発な議論を期待している。後者の年次集会では、これまでの研究全般についてあらためて意見交換をすすめるとともに、同大学の図書館において追加の資料収集をおこなう。

2015年度以降

研究の第二段階においては、前年度の研究成果を統合した発表をおこない、「生の技法」と生の規範に関するアウグスティヌスの探求について、研究者との意見交換、成果の共有につとめるとともに、「心性」の複層性を解明する研究に着手する (Cf. Lahire, B. 2003. “From the Habitus to an Individual Heritage of Dispositions.” Poetics 31: 329-55)。この段階では、古代末期の錯綜した文化的、社会的、宗教的な環境に関する先行研究 (Cf. P. Rousseau (ed.). 2009. A Companion to Late Antiquity. Chichester, West Sussex; Malden, MA) も参照し、「古代末期」研究の近年の成果を批判的にとりいれることによって、心性に関する包括的な理解をめざした研究にとりくむ。

研究代表者上村直樹は、2015年 6月上旬にカナダ・オタワのオタワ大学でひらかれる「カナダ教父学会」において、前年度後半にすすめた発表の検証をふまえた「生の技法」についての包括的な研究成果を発表する。ついで、8月上旬にイギリス・オクスフォードにおいてひらかれる「国際教父学研究集会」では、「カナダ教父学会」での議論をふまえるとともに、生の規範と修道制との関わりという前年度にとりくんだもう一つのテーマを加えた発表をおこなうことによって、欧州・北米・アジア・豪州地域から多数参集する研究者と積極的に所見を交える。また、日本とオーストラリアの研究者を主体に構築してきた研究ネットワークについて他地域の研究者に紹介することをとおして、研究交流の新たな可能性について検討する。

この年度の後半には、古代的な心性の複層性について考察する本研究の第二段階の成果発表にとりかかる。まず2016年 1月に豪州地域でひらかれる「オーストラレーシア古典学会」において、古代末期の宗教的な多元性と心性との関連について俯瞰する発表をおこなう。ついで 3月上旬にブリスベンでひらかれるオーストラリアカトリック大学初期キリスト教研究センター年次集会では、とくにキリスト者の心性に焦点をあてた発表をおこなう。前者の学会には古代史学を専攻する研究者も多数参加するので、「心性」研究に関する活発な議論を期待することができる。後者の研究集会では、本研究の最終年度を展望する意見交換をおこなう予定である。

研究最終年度となる2016年度には、まず 5月下旬にシカゴでひらかれる「北米教父学会」、ついで「カナダ教父学会」に参加し、研究発表をおこなう予定である。前者の学会では、本研究の基盤となる哲学的な「生の技法」についての研究をふまえ、古代末期の折衷的な哲学思潮と「心性」との関連について考察する発表をおこない、後者の学会では、修道制における生の規範についての研究をふまえ、古代末期の社会的な多元性と心性との関連について考察する発表をおこなう。これによって、本研究の最終的な成果の一部を明らかにし、その共有をめざす。ついで、研究成果報告書をまとめる準備にとりかかる。豪州ブリスベンで 10月にひらかれる予定の「初期キリスト教学会」では、生の技法、規範、心性研究を相互に連結した内容の発表をおこなう。あわせて、この学会に参加する予定の Allen 教授と本研究の成果を共有し、研究成果報告書の内容について所見をまじえるとともに、本研究を発展させる方向性についても議論する。