Allen & Morgan, ‘Augustine on Poverty’

Translation of Pauline Allen and Edward Morgan, ‘Augustine on Poverty’, 2009; in Augustine’s Understanding and Practice of Poverty in an Era of Crisis, Supplement, Research Report 2009–2011 Grants-in-Aid for Scientific Research (C) (2012) 92p.

Cover Page of 2009-2011 GASR Research Report Supplement This supplementary volume includes the translation of the following book chapter: Pauline Allen and Edward Morgan, chap. 4: ‘Augustine on Poverty’, in: Pauline Allen, Bronwen Neil, and Wendy Mayer (eds), Preaching Poverty in Late Antiquity: Perceptions and Realities, Arbeiten zur Kirchen- und Theologiegeschichte 28 (Leipzig: Evangelische Verlagsanstalt, 2009) 119–170.

  • Abbreviations, p. VII
  • Introduction, p. 3
  • 1. Economic context, pp. 4–7
  • 2. Background to the sources, pp. 7–10
  • 3. Models, pp. 10–17
  • 4. Discourse on poverty and almsgiving, pp. 18–39
  • 5. Augusitne’s attitude to voluntary poverty, pp. 39–41
  • 6. Augustine’s social vision, pp. 41–45
  • 7. Rhetoric versus reality, pp. 45–62
  • Conclusion, pp. 62–64
  • Bibliography, pp. 65–75
  • Translator’s Postcript, pp. 77–79
  • Index locorum, pp. 81–85

P・アレン/E・モーガン「「貧困」についてのアウグスティヌスの洞察」上村直樹訳, 『転換期における「貧困」に関するアウグスティヌスの洞察と実践の研究 別冊』2009–2011年度科学研究費補助金基盤研究 C 研究報告 (2012) 92p.

この科研費報告書別冊は、Pauline Allen, Bronwen Neil, and Wendy Mayer (eds), Preaching Poverty in Late Antiquity: Perceptions and Realities, Arbeiten zur Kirchen- und Theologiegeschichte 28 (Leipzig: Evangelische Verlagsanstalt, 2009) の119–170頁におさめられているポーリーン・アレン教授とエドワード・モーガン博士が分担執筆した第4章 Augustine on Poverty の翻訳である。まず、この翻訳の目次をあげる。つぎに、その内容の一部、「序論」「訳者後記」を載せることで、全体の見通しと翻訳にいたった経緯を紹介する。

  • 凡例 VII
  • 序論 3
  • 経済的な背景 4
    • 諸資料における貧者の意味 7
  • 諸資料の背景 7
  • モデル 10
    • 人間性に関するモデル 10
    • 哲学的・神学的なモデル 14
  • 貧困と施しについての説教 18
    • 「雌鶏が卵のうえに座るように、黄金のうえに座るな」 18
    • 直接的、あるいは間接的な施し 25
    • 聖職者の支援 29
    • 差別的、あるいは無差別的な施し 30
    • 物質的な、また霊的な施し:適切な統合 33
    • 使用/享受、「貧者と愛の正しい秩序」 35
    • 貧困についての気質に関わる思考 36
  • 自発的な清貧に対するアウグスティヌスの態度 39
  • アウグスティヌスの社会的な見方 41
  • 修辞と現実 45
    • 貧困と物質的な施しについてのアウグスティヌスの修辞 46
      • 運び手 (laturarii) としての貧者 46
      • 物乞いのイメージの利用 47
      • 永遠的な事物と時間的な事物の区別 50
      • キリストの身体への言及──キリスト者同士の施し 51
      • 人間性を共通につなげている同一性 52
      • 内なる正義を生み出す外的な施しについての描写 53
      • 物質的な事物の正しい使用としての施し 53
      • 健康という富 54
      • 「夢と富」のはかなさ 56
      • 物質的な施しについて別個に位置づけられるイメーシ 57
    • 考察される証言:貧者は現実のものか、修辞上構成されたものか 59
  • 結論 62
  • 参考文献 65
  • 訳者後記 77
  • 原典索引 81

序論

ヒッポのアウグスティヌス (430年死去) は、ヨハネス・クリュソストムス (407年死去) の後半生と重なる時期に活動したのだが、今日私たちは、その彼が著した膨大な著述を手に取って読むことができる。だがそこには、貧困、救貧、あるいは、自発的な清貧に集中している作品が一つたりとも存在していない。その結果、これらの主題に関するアウグスティヌスの思想を包括的に扱った研究はいまも見出されることがない[注1]。このヒッポの司教について論じている定評ある何冊かの研究書の索引のなかで、貧者、あるいは貧困について指示されることすらないのである[注2]。そこで本論文において私たちは、40年にわたってアウグスティヌスが携わった教会の職務にそくし、さまざまな領域に残されているきわめて多くの資料をまとめあげることに専念するとともに、それらを理解するようにつとめる。まず、アウグスティヌスが活動した時期の経済状況一般について概観することから着手し、また、取りあげる資料について触れることにしよう。ついで、私たちは、アウグスティヌスによる慈愛に基づくモデル、つまり、人間性に関するモデルと哲学的・神学的なモデルの双方について考察したうえで、貧困、施し全般についての言説や、直接的(間接的)・差別的(無差別的)な贈与、聖職者への支援、物質的・霊的な施しに対する態度、使用と享受 (uti/frui) の区別、そして、気質が関わる貧困について検討する。アウグスティヌスの自発的な清貧に対する態度については、そのつぎに論じられる。これらすべての様相が、可能なかぎりアウグスティヌスの社会に対する見方と関係づけられるだろう。私たちは、この段階まで至ってはじめて、彼の著作における貧者が現実のものなのか、それともその大部分が修辞上構成されたものなのかについて問うことができる。この点については、より理論的な、あるいは思弁的な作品と、書簡や説教のような、貧困、貧者、また、救貧についての「事実的な」証拠を記している作品の両方を検証することによって考える。彼が、修辞上の方策としてイメージを使う度合い、また、貧者についての説教が首尾一貫しているかについても検証されるだろう。最後に私たちは、アウグスティヌスを、「貧者を愛する者」「貧者を統治する者」だと見なす観点についての私たちからの説明を呈示する。

  1. この状況について、P. R. L. Brown, ‘Augustine and a crisis of wealth in late antiquity’, The Saint Augustine Lecture 2004, AugStud 36 (2005) 5–30 のうち、6頁を見よ。
  2. この例証として私たちが挙げることができるのは、G. Bonner, St Augustine. Life and Con- troversies, rev. edn (Norwich 1986); S. Lancel, St. Augustine, trans. A. Nevill (London 2002); R. Dodaro and G. Lawless (eds.), Augustine and His Critics. Essays in Honour of Gerald Bonner (London and New York 2000).

訳者後記

本報告書別冊は、Pauline Allen, Bronwen Neil, and Wendy Mayer (eds), Preaching Poverty in Late Antiquity: Perceptions and Realities, Arbeiten zur Kirchen- und Theologiegeschichte 28 (Leipzig: Evangelische Verlagsanstalt, 2009) の119–170頁におさめられているポーリーン・アレン教授とエドワード・モーガン博士が分担執筆した第4章 Augustine on Poverty の翻訳である。翻訳に際しては、第4章末に所収の文献表を載せるとともに、本章がアウグスティヌスの貧困についての論述を主題とすることから、聖書章句とアウグスティヌスの著作についての「原典索引」をあらためて作成している。

本報告書の「はじめに」のなかで出村和彦氏が記している通り、この研究書は、4世紀から6世紀にいたるキリスト教共同体の代表的な司教の社会に対する寄与が顕著であり、彼らを、古代世界にひろがっていた貧困の問題への対処に積極的に取り組んだ「貧者を愛する者」「貧者を治める者」と規定することによって、キリスト教の司教の役割に転回をもたらした者たちであると評価するピーター・ブラウン教授の先行研究のテーゼに異議を提出している[注1]

すでに1967年に著したアウグスティヌスについての革新的な伝記によって[注2]、古代世界に生きた教父の姿を鮮明に浮かび上がらせ、アウグスティヌス研究に衝撃をもたらしただけでなく、その後の研究を通して、「古代末期」(Late Antiquity) の世界を独自の活力を有した時代と捉える枠組みの基本を形成したブラウンのテーゼは、司教の社会的な活動への貢献がどのように実現されていたかという問題に対する具体的な解答を提出しているという観点からも魅力的である。しかしながら、ブラウンが主張するように、後期ローマ社会におけるキリスト教司教の傑出した地位を、古典古代の「市民」社会のモデルから中世的、ビザンツ的なキリスト教的社会のモデルへの移行のなかに位置づけ、司教のリーダーシップを貧者への配慮のうちに卓越していたと簡単に首肯することができるだろうか。

こうした疑問に対して、オーストラリアカトリック大学・初期キリスト教研究センターにおいて2006年から3年計画で実施された研究プロジェクトでは、アレン教授を中心とするグループが、ヨハネス・クリュソストモス、アウグスティヌス、レオI世のテクストを分析し、彼らの貧困に関わる言説と実践を、ブラウンのテーゼにしたがって捉えるのは困難であることを明確に実証した。その詳細についてはここに訳出した論考からも明らかであり、アウグスティヌスの『説教』『詩篇講解』『書簡』を中心とする検証は徹底している。私たちが、オーストラリア側と協力しつつ遂行した科研プロジェクトの成果である本報告書とあわせることで、とりわけアウグスティヌスの「貧困」に関わる実態を解明することが可能になっていると考える。また、日本におけるアウグスティヌス研究が、『告白』や初期の哲学的な著作を中心にしてアウグスティヌスの神学的、哲学的な思想を解明しようと試みる精緻な研究を生み出してきたのに対して、古代末期の変容に関わる問題提起に答えるべく、さまざまな説教や書簡にも焦点を当てる研究は、アウグスティヌス研究へ異なる観点からの刺激を与えることになるように思われる。

今後も、オーストラリアの研究チームとの研究交流は継続する予定である。すでに、2011年4月から今回の科研プロジェクトにつづいてあらたに、アウグスティヌスの『告白』に先行する時期の聖書註解の分析、検討を目的とする研究プロジェクト「アウグスティヌスにおける聖書解釈の理論と実践」が始まっており、アレン教授を中心とする研究グループとの共同研究が進められている。そして、2012年7月には韓国のソウルにおいて、第7回「アジア環太平洋初期キリスト教学会」が、また2013年10月にはオーストラリアのメルボルンにおいて、「初期キリスト教学会」が開催され、アジア太平洋地域の教父学研究者の交流を通して、さらなる研究の進展が期待されている。今日人文学の分野全般において求められている国際共同研究という仕組みは、古代末期の教父学という膨大なテクストとの格闘を逼られる研究領域においてとりわけ必要であるが、その一端を本研究報告書と別冊において実現できたのではないかと考える。

最後に、翻訳された論考を執筆した著者について、この研究書の末尾に載せられている紹介に一部を補って紹介したい。本報告書においても記されている通り、ポーリーン・アレン教授は現在、オーストラリアカトリック大学・初期キリスト教研究センターの所長として活躍しており、古代末期の説教テキストの分析、また、6世紀シリア・アンティオキアの総大司教であったセウェロスや、7世紀のギリシア教父である証聖者マクシモスの研究によって国際的に著名な研究者である[注3]。現在は、アウグスティヌスのマリオロジー研究を端緒とした書簡研究、またこの古代末期の「貧困」研究に引き続いて、研究所のブロンウェン・ニール博士と共同で、オーストラリアリサーチカウンシル (ARC) 創発研究プロジェクト「古代末期における危機管理──キリスト教司教書簡に見るその証言」に従事している最中である。共著者であるエドワード・モーガン博士は、2006年から2009年まで研究センターのリサーチ・アソシエイトとして共同研究に従事した気鋭の研究者である。この翻訳のなかでも紹介されている通り、博士がケンブリッジ大学に2006年に提出した博士論文を公刊している[注4]。共同研究を終了後は、博士の母校の一つであるメルボルン大学のオルモンド・カレッジにおいてアソシエイト・ディーンをつとめたのち、オーストラリア海軍に入隊、研鑽を積まれて戦略研究に従事している。とはいえ、アレン教授から最近届いた知らせによれば、博士が海軍を除隊し、ふたたび研究活動を再開されたということであり、今後の活躍に期待しているところである。

この翻訳を進めるにあたっては、逐次これまでに刊行された日本語の研究文献、特に、教文館から刊行中の『アウグスティヌス著作集』に所収の『詩篇講解』と『説教』の翻訳から学んでいる。なお、翻訳刊行に際して、科学研究費助成金 (基盤研究(c)「転換期における「貧困」に関するアウグスティヌスの洞察と実践の研究」課題番号: 21520084) による助成を受けている。

  1. Peter Brown, Poverty and Leadership in the Later Roman Empire (Hanover and London 2002). ブラウンの研究を紹介する日本語文献として、宮島直機訳『古代末期の世界:ローマ帝国は何故キリスト教化したのか?』刀水歴史全書 58、改訂新版(刀水書房、2002年); 後藤篤子編『古代から中世へ』山川レクチャーズ 2(山川出版社、2006年); 足立広明訳『古代末期の形成』(慶應義塾大学出版会、2006年)を参照。
  2. Augustine of Hippo. A Biography, new edn (London 2000). この増補版の日本語訳は、『アウグスティヌス伝』上・下、出村和彦訳(教文館、2004年)。
  3. セウェロス研究については、P. Allen and C. T. R. Hayward, Severus of Antioch, The Early Church Fathers (London and New York 2004)、マクシモス研究については、The Life of Maximus the Confessor. Recension 3, ed. and trans. B. Neil and P. Allen, Early Christian Studies 6 (Strathfield 2003); Maximus the Confessor and His Companions: Documents from Exile, ed. and trans. P. Allen and B. Neil, Oxford Early Christian Texts (Oxford 2002) を参照。
  4. The Incarnation of the Word: The Theology of Language of Augustine of Hippo (London 2010).