研究経過

2011年度

研究初年度にあたって両研究者は、研究計画にあげられた課題1:アウグスティヌスが、「創世記」とパウロ書簡をどのように解釈したのか;と、課題2:『嘘について』に前後するアウグスティヌスの言語理論が、どのように変化したか(あるいは変化しなかったか)を考察することに着手し、その成果を国内外の学会において発表した。また、これまでの研究成果を公刊することによって、今後の研究の方向を明確にすることに取りくんだ。

研究代表者・上村は、2011年5月カナダで開かれた教父学会年次研究集会において、「創世記」1:26-27解釈の問題性について発表し、本研究計画が対象としている『告白』先行段階において、アウグスティヌスがすでに「創世記」冒頭解釈の基本的な枠組みを構築していたことを明らかにした。さらに、8月イギリスで開かれた国際教父学研究集会でパウロ書簡解釈に関する発表を行なった。そして、年度末オーストラリアカトリック大学の初期キリスト教研究センターで開かれた研究集会に参加し、研究の進行状況をレポートするとともに、海外研究協力者Pauline Allen教授との意見交換を行なった。

研究分担者・佐藤は、アウグスティヌス『嘘について』において展開している「嘘」の成立と人間の志向性を結びつける独自の理解が、『告白』では「嘘」から免れない者としての人間観へ深化し、そのキリスト論に影響していることを明らかにした。そして、その成果を『中世思想研究』第53号に投稿・公刊した。さらに、アウグスティヌス初期から中期にいたる言語理論の発展が、そのキリスト論に密接に関係していること、また人間の言語的営みが救済に寄与していることを明らかにし、11月福岡市で開かれた中世哲学会大会において発表した。大会に参加した各方面の研究者との意見交換から得られた知見をふまえて分析を進め、その成果を年度末に論文として提出する予定である。

2012年度

研究第2年度において両研究者は、研究計画にあげた課題1「アウグスティヌスが、「創世記」とパウロ書簡をどのように解釈したのか」と、課題2「『嘘について』に前後するアウグスティヌスの言語理論が、どのように変化したか(あるいは変化しなかったか)」の検討を続行し、その成果を国内外の学会において発表するとともに、課題3「人間論はいかに展開したか(展開しなかったか)」の考察に着手した。

研究代表者・上村は、2012年5月カナダの教父学会において、パウロ書簡についてのアウグスティヌス初期、中期の解釈を分析した成果を発表した。そして、『告白』に先行する段階で、アウグスティヌスの人間論が古典的、目的論的な人間の完成への階梯論から移行し、恩恵の神的な介入をみとめる救済史的、歴史神学的な枠組みに包摂されつつあることを明らかにした。さらに、7月韓国の「アジア環太平洋初期キリスト教学会」では、『告白』の回心の場面に現れるパウロ書簡解釈の意義を、先行する著作群のなかに検証する発表を行なった。あわせて、本研究を紹介するウェブサイトを構築し、研究状況について周知する枠組みを設定した。

研究分担者・佐藤はまず、万物の生成原理としての「言葉」理解の変化を、初期、中期著作において分析し、アウグスティヌスが、「言葉による創造」というヨハネに由来する考えを、ギリシャ的な形相付与による創造として理解することから出発し、創造者の意図的な発話として捉えるにいたった経緯を見出した。そして、『告白』における「創世記」解釈の枠組みに関わるこの成果を、7月韓国の「アジア環太平洋初期キリスト教学会」において発表した。さらに、『「ガラテヤの信徒への手紙」注解』の分析に着手し、パウロの言葉と「真理」概念の関係に着目し、アウグスティヌスのこれ以降の聖書解釈論に反映する「真理」概念が、この関係によって確立したことを明らかにした。

2013年度

本研究の最終年度において、これまでに明らかになった問題を検討するとともに、全体の研究成果をまとめ、2013年10月にオーストラリアで開かれた初期キリスト教研究学会で発表した。そして、2014年3月に冊子体研究報告書を刊行するとともに、同月にオーストラリアで開かれた共同研究集会においてその内容を報告し、研究チームとの共同討議をおこなうことによって、今後のさらなる研究の展開について議論した。

研究代表者・上村は、2013年5月アメリカの北米教父学会において、対話篇という文学形式について検討し、アウグスティヌスをとりまく共同体における教育のあり方を考察し、つづく6月のカナダでの教父学会において、初期の覚え書きといわれる論考のなかに、すでに枢要な問題の布置が設定されていることを明らかにした。

上村と研究分担者・佐藤(10月から、研究協力者に変更)はともに、10月にオーストラリア・メルボルンで開かれた初期キリスト教研究学会において、これまでに明らかにされたアウグスティヌスの「創世記」解釈とパウロ書簡解釈の実態、また、それぞれの解釈を支えたアウグスティヌスの人間論、言語理論といった思想のプロセスについて論ずる研究発表をおこなった。佐藤はとりわけ、「創世記」解釈を初期の註解において救済論的な視点から考察し、上村は、主著『告白』におけるアウグスティヌスのパウロ書簡との出会いの意義を考察した。

両者はこの発表をふまえ、11月以降、英文研究報告書を刊行すべくその準備に着手し、これまでの研究発表を再考した。2014年3月には報告書を刊行するとともに、オーストラリア・ブリスベンで開かれた共同研究集会において、その概要を紹介した。とくに研究の成果とその意義を論じた報告書「序論」をとりあげ、海外研究協力者をまじえた議論のなかで、研究をさらに展開する可能性について検討した。